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2008年3月14日 (金)

[裁判]住基ネット合憲判断の理由がよく分からない

 少し古い話で恐縮ですが、住基ネットの合憲性について争われていた事案について、最高裁判所が合憲の判断を下しました。

● 最高裁判所の判決文(PDF)
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080306142412.pdf

 結論について賛成か反対かはここでは触れません。その点についてはご想像にお任せします。

 気になったのは、合憲と判断した理由です。

 判決理由として裁判所が示している点を要約すると

  1. 「氏名」「住所」「生年月日」「性別」「異動履歴(転居等)」は秘匿性の高い情報とはいえない
  2. システム上の欠陥等による漏洩の具体的な危険性はない
  3. 漏洩等については懲戒処分又は刑罰をもって禁止されている

以上によって、住基ネットは安全なものだと判じています。

 へー。というのが正直な感想です。

 まず第1点。「氏名」「住所」「生年月日」「性別」「異動履歴」が保護に値しない個人情報だという点について。個人情報保護法における個人情報の定義は

「氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」

となっていますが、その中で「氏名、住所、生年月日、性別、異動履歴」は保護に値しないって、ほーほー、個人情報保護に頭を悩ませている事業者の皆さん、朗報ですね。

 しかし、例えば藤原紀香の現住所が一般に知られてしまったとしたら、彼女の生活は著しく支障が起きるのではないでしょうか(この点、僕自身、芸能人に疎いので、例がぴんと来ない方はお好きな有名人に置き換えてください)。

 また、有名人だけでなく一般人にしても、「氏名、住所、生年月日、性別」情報は保護されたい情報なのではないかと思います。

 例えば、DM事業者にとって、住所、氏名に加えて生年月日や性別が分かるリストをもっていることは大きなメリットです。考えてもみてください。1980年生まれ、女性。同じ住所での異性登録なし。つまり独身。そろそろ結婚を考えていてもおかしくない。結婚相談案内のDMを打つわけです。あるいは、2002年生まれの山田花子さん。同じ住所に1940年生まれの男性がいる。そろそろ小学校にあがる孫がいるおじいちゃん。ランドセルの一つも買ってやろうと思っているなじゃないだろうか。等々。いろいろと思いつくわけです。ましてや、悪意のある人、つまり架空請求を行っているような人々にとってはよだれが出るような情報です。

 これを「保護するに値しない」というのは、僕の感覚からはずれています。

 第2の点については、いわずもながです。基本的に文系の裁判官が「システム的に危険性がない」なんて、本当ですか? そんなふうに断定して、もし漏れた場合、この裁判に立ち会った人(ちなみに裁判長は涌井紀夫)は、どのような責任を負ってくれるのでしょうか? と言いますか、システムに「絶対はない」というのが鉄則だと思うのですが、いかがなものでしょうか。

 しかも、システム的に問題ないとしても、人的な問題があります。厚生省職員が、職務とは関係なく興味本位で有名人の年金記録を閲覧していたというのが問題になっていたはずです。ましてや、住基ネットを使える公務員の数は、厚生省職員の比ではありません。彼らのモラルを信頼しろと?

 第3の点については、正直あきれています。漏れた場合は罰する。だから問題ない。いやいやいや、住基ネットは住民の個人情報が電子情報にされていることが売りなわけでしょう? そして、電子化された情報は、いったん漏れた場合、もはや止めようがないというのは、Winny の漏洩事件を挙げるまでもなく、様々な人が、様々な機会に指摘していることでしょう。つまり、漏れてからでは遅いわけです。

 さらに言えば、社保庁の年金着服について横領罪として訴追されていない例に見られるように、なにか問題があったときに、役所というのは責任の所在をうやむやにする傾向にあることが、まさに問われている今日、最高裁判所はなにを見ているのか?

 住基ネットが合憲だとする判断については、とやかく言いません。でもね、その理由として上記で足りると思っている最高裁判所の考えが、僕にはよく分かりません。とりあえず、涌井という裁判長の名前は覚えておきます。

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